パートも年末調整の対象?必要な書類や書き方・年末調整しないとどうなるのか解説

毎年12月ごろに勤務先から告知がある年末調整、ややこしくて敬遠されている方はいませんか。また、年末調整は正社員が行うものであり、パートはしなくても良いと思っていませんか。
本記事では、パート勤務の方における年末調整についてと、年末調整の意味や申請時における必要書類の書き方について解説しています。ぜひご一読いただき、参考にしてみてください。
年末調整とは?

年末調整とは、一年間(その年の1月1日~12月31日)に収めた所得税を正しく計算し直し、払いすぎた場合は還付を受け、不足していた場合は追加で納付する制度です。
パートや正社員など雇用形態に関わらず、従業員は所得税を給料から天引きされています。勤務先がパートなど従業員の給与や賞与から所得税額を算出し、所得税を差し引き(源泉徴収と呼びます)、残りの金額を手取り額として支給しています。給与明細に所得税額および差し引かれたあとの手取り額の記載があるはずですので、確認してみると良いでしょう。
基本的に所得税は、毎年2月中旬~3月中旬に行われている確定申告で税額を計算し、納税をする必要があります。しかしながら、国内に400万社近くある民間企業の全従業員が、所得税を申告するために確定申告会場に集まるのは作業が煩雑です(※公務員も年末調整する必要があるので、厳密には400万社ではたらく以上の方が対象となります)。また、年間の収入が確定した後に所得税を計算・一年分を一括納税するのは、勤め人にとっても税負担が重くなりがちです。これらの理由により、従業員に代わって会社が毎月所得税を納める仕組みとなっています。
なお、結婚や子どもの出産・配偶者の就職・退職などにより年の途中に控除対象扶養親族の人数が変わる方もいるでしょう。この場合でも控除額が変わるため、年末調整の対象となります。
ただし、医療費控除・住宅借入金等特別控除など所得税の負担を軽減できる制度があります。これらは年末調整の対象から外れており、何もしなければ控除を受けることができません。そのため、確定申告をすることで税額を正しく計算します。
パートも年末調整の対象になる?

年収が103万円を超える場合、パートであっても年末調整の対象となります。
なお、この際の年収とは手取り額ではなく総支給額を指します。そのため、手取り額が80万円であっても総支給額が103万円を超える場合は、年末調整の対象となります。
年末調整の対象となる条件
年末調整の対象となる条件についてみていきましょう。後述しますが、扶養に入っているか否かで条件が分かれます。
自分自身が扶養に入っていない場合
年収が130万円を超えると、配偶者の扶養から外れます。
共働き家庭の場合、年収によって、ご自身が配偶者の扶養に入っていないこともあるでしょう。この場合、年末調整を行う必要があります。
自分自身が扶養内ではたらいている場合
年収が130万円以下であれば、配偶者の扶養に入ります。所得税がかかり始める103万円を超える(かつ130万円以下)のであれば、年末調整を行いましょう。
なお、年収が130万円を超えると扶養から外れますので注意しておきましょう。
また、後述しますが年収103万円以下の場合でも、年末調整が必要な場合があります。
年末調整の対象外になる条件
年末調整は所得税額と源泉徴収額を一致させる(所得税額を正しく計算する)ために行われるものです。また、年収が103万円以下の方は所得税が課税されないため、基本的には年末調整の必要がありません。これは年収額が控除額以下となるためです。この控除は給与所得控除および、基礎控除と呼ばれており、どちらも所得税を軽減するための重要な制度です。
大まかな給与所得控除額と基礎控除額は以下のとおりです。
- 給与所得控除について:
合計所得金額が1,625,000円までの方 → 給与所得控除額は55万円
※収入金額に応じて段階的に給与所得控除額は変化します - 基礎控除について:
合計所得金額が2,400万円以下のすべての方 → 基礎控除額は48万円
※現在税制改正の審議が行われており、今後の情勢により控除額が変動する可能性があります。最新情報は政府広報などをご確認ください。
給与所得控除は給与収入から一定額を差し引き、課税対象となる給与所得を算出します。
基礎控除は所得税の計算に適用されます。年末調整で控除を受けるためには勤務先に「給与所得者の基礎控除申告書」を提出しなければなりません。
上記のとおり、55万円と48万円を合計すると103万円となります。年収が103万円以下であれば、所得税が課されないため年末調整の対象外となります。
なお、2025年3月現在、税制改正に向けて所得税が発生する年収額の見直しがについての審議されています。可決すれば年収の壁が現行の103万円から160万円となり、160万円までの年収であれば所得税がかからず、したがって年末調整も基本的には不要となります。
扶養内ではたらくためには?
扶養内ではたらくためには、年収を130万円以下に抑えなければなりません。なお、先述したとおりこの金額は手取り額ではなく総支給額となりますので、間違えないようにしましょう。
103万円の壁とは?
先述したとおり、年収が103万円以下であれば所得税がかからなくなります。このように、所得税がかからないギリギリの年収ラインを「103万円の壁」と呼んでいます。
年収103万円以下ではたらく方は控除対象配偶者となり、所得税がかからなくなる配偶者控除を受けられます。
所得税がかかる分、手取り額が減ります。ですが、所得税は累進課税であり、年収が少ないうちはかかる税率も低く抑えられています(所得金額が1,000円〜1,949,000円以下であれば税率は5%)。5%で計算すると、仮に年収が104万円でも、かかる税率は以下のとおりです。
例)年収104万円の方の所得税額
- 1万円(103万円を超えた額)×5%=500円
- 税引後の収入は1,039,500円
※厳密にはこのほか、住民税もかかります
このとおり、課税による影響は微々たるものといえるでしょう。
ですが、年収が103万円を超えることによる大きな影響は、扶養から外れたことにより世帯主の方が扶養控除を受けられなくなる点にあるでしょう。パートではたらく方のなかに手取り額が大きくなるよう年収を103万円以下に抑えるのは、このような理由があるためです。
控除対象扶養親族になるための条件は、以下すべてを満たす必要があります。
- 納税者と生計を一緒にしている
- 16歳以上(※16歳未満の方は扶養控除の対象とはなりません)
- 配偶者以外の親族(子ども・親・兄弟など)
- 一年間の合計所得金額が103万円以下
- 青色申告・白色申告の事業専従者でない人
130万円の壁とは?
年収が130万円を超えると配偶者の扶養から外れ、健康保険料・厚生年金保険料を自分で支払う必要が生じます。これらの保険料を払わなくて済むギリギリのラインを「130万円の壁」と呼んでいます。
健康保険・厚生年金保険は会社員や公務員に加入の義務があり、毎月勤務先と折半で健康保険料・厚生年金保険料を支払っています。
しかしながら、配偶者の扶養に入っていれば、配偶者の健康保険を使うことができます。この場合、自分自身は健康保険料・厚生年金保険料を支払う必要はありません。これらの保険料を支払わなくて済む分、手取り額を多く受け取れます。
パートの年末調整に必要な書類と書き方

毎年年末になると、勤務先から年末調整に必要な書類が配布されます。普段書き慣れていない方も多くいるため、どのように書けば良いのか分からない方も多いのではないでしょうか。
これらの書類の詳細については以下をご覧ください。
パートの年末調整に必要な書類
パートの年末調整に必要な書類は以下のとおりです。
- 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
- 給与所得者の基礎控除申告書
- 給与所得者の保険料控除申告書
以下で詳しく解説します。
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の書き方
こちらは本人の氏名・住所などのほか、控除対象配偶者・16歳以上の控除対象扶養親族・16歳未満の扶養親族がいる場合などに記載します。
なお、独身者であり源泉控除対象配偶者や障害者ではなく、あなた自身も障害者・寡婦・ひとり親・勤労学生に該当しない場合は、本人の情報のみ記載して提出すればOKです。
給与所得者の基礎控除申告書の書き方
合計所得金額が2,400万円以下である場合に、合計所得金額に応じて最大48万円の控除が受けられます。ただし、こちらの申告書を提出しなければ控除が受けられないので、提出漏れが無いよう注意しましょう。
給与所得者の保険料控除申告書の書き方
生命保険や地震保険・火災保険などは、所得税の支払いを減額できる控除が受けられます。加入しているこれらの保険がある場合、保険会社より毎年秋ごろに一年間の支払い実績を証明する控除証明書が届くでしょう。大抵はその年の1月~9月までの支払い実績と、その実績に応じた10~12月の支払い見込額が記載されているはずです。これらの金額を申告書に記入し、証明書類として控除証明書原本を添付して勤務先に提出しましょう。
なお、個人型確定拠出年金であるiDeCoも「小規模企業共済等掛金控除」の対象となります。こちらも秋ごろ控除証明書が届くはずですので、iDeCo加入者の方は申告書へ記入のうえ証明書とともに勤務先へ提出しましょう。
パートで確定申告の必要がある場合

パートで確定申告の必要がある場合について見ていきましょう。
12月31日までにパートを辞めた場合
12月31日までにパートを辞めた方の場合、年内に次の勤務先ではたらいていなければ年末調整が行われません。そのため、ご自身で翌年2月中旬~3月中旬に行われる確定申告をする必要があります。
なお、その際に退職したパート先で受け取った源泉徴収票が必要になるため、準備しておきましょう。
源泉徴収票とは、その年の1月1日~12月31日までに受け取った給与や賞与の総額と、その間に収めた所得税額が記載された書類です。パートやアルバイト・正社員など雇用形態に関係なく、すべてのはたらく方に対して勤務先にて発行する義務があります。手元に無い場合は、勤務先に連絡して送ってもらいましょう。
パートを掛け持ちしている場合
パートを掛け持ちしており、掛け持ち先を含めた合計所得金額が103万円を超え、かつ掛け持ち先パートのみの所得金額が20万円を超えている場合は確定申告が必要となります。
基本的に年末調整の対象となるのは、掛け持ちしている場合はどちらか1箇所の勤務先のみとなります。これは、複数の勤務先で年末調整を行うと、控除が重複してしまうため正しい税額の計算ができなくなるためです。一般的には、給与支払額の大きい企業に対して年末調整を行うこととなります。
なお、掛け持ち先を含めた合計所得金額が103万円を超えていても、掛け持ち先単体で20万円以下の場合は確定申告をする必要はありません。
掛け持ち先の合計所得金額が20万円を超えているにもかかわらず、確定申告をしていないことが発覚した場合、ペナルティとして無申告加算税が課される可能性があります。注意しましょう。
パート以外に収入がある場合
業務委託契約などいわゆる副業などにより、パート以外の収入がある方の場合、合計収入額が103万円を超える場合は確定申告をする必要があります。ただしこの場合も副業収入が年間20万円以下であれば不要です。
パートの年末調整に関するよくある質問

年末調整に関してよくある質問をまとめました。
パートで年末調整しないとどうなる?
年末調整をしなければ、扶養家族などがいる方の場合は扶養控除などの控除が受けられず、所得税を納め過ぎていた場合に還付が受けられません。その分必要以上の税金を納めてしまうこととなります。
また、住民税額は前年の所得額に応じて決まります。本来受けられるはずだった所得税の控除を受けず、所得額が高いままであったために高い住民税を支払わなければならなくなる可能性もあります。
そのため、年末調整は行うようにしましょう。
パートの年末調整は会社がやってくれる場合もある?
パート・正社員問わず、以下のどちらかに該当する場合は勤務先が年末調整を行います。
- 会社に一年を通じて勤務している
- 年の途中で就職し年末まで勤務している
勤務先が年末調整を行うのは、所得税法上の義務です。従業員が年末調整を受ける条件を満たしている場合、勤務先は年末調整をしなければなりません。
なお、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」が提出されていない場合、勤務先が年末調整を行わない可能性があるので注意しましょう。
パートで103万円以下なら年末調整は不要?
年収が103万円以下の場合、基本的には年末調整が不要ですが、以下に該当する場合は年末調整が必要となります。
- 勤務先に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している
- 一年間に一度でも月給が88,000円を超過しており、源泉徴収されている
「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」は配偶者や扶養家族の有無を申告し、扶養控除を受けるために提出する書類です。この申告書を勤務先に提出した場合、勤務先は給与を支給する際に源泉徴収を行います。これにより所得税の過不足が発生する可能性がある点から、年末調整の必要が生じます。
また、月給が88,000円を超えた場合、源泉徴収が行われます。こちらは一年間を通して最終的に年収が103万円以下であった場合、源泉徴収された所得税は還付されます。ただし還付のための手続きとしてこちらもまた、年末調整が必要となります。
年収103万円以下であっても年末調整をしなければならないケースもあるので、注意しましょう。
給与所得者の基礎控除申告書はパートも書かないといけない?
合計所得金額が2,500万円以下の方が受けられる、最大48万円の基礎控除は申告しなければ受けることができません。そのため、2,500万円以下の方はパートであっても申告書を提出するようにしましょう。
まとめ
年末調整は控除額の計算など煩雑であり、また勤務先で雇用されている勤め人であれば年に一回しか行わないためなかなか慣れないという方も多くいます。そのうえ、結婚した、子どもができたなど家族状況に変化があった際にも記載内容が変化します。
しかしながら、少しでも税金を抑えることは豊かな生活を送るために必要なことです。申告書の記載に苦労した分、税金の減額という点で報われるため頑張って申告しましょう。