パートの雇用保険の加入条件とは?メリットデメリットや計算方法を解説

パート勤務でも雇用保険に加入できるのか、疑問に思ったことのある方も多いのではないでしょうか。
実は、一定の条件を満たせばパートの方でも雇用保険に加入でき、失業時には給付を受け取ることができます。
この記事では、雇用保険に関する基礎知識から、パートでの加入条件、メリット・デメリットに至るまで詳しく解説します。
雇用保険について詳しい情報を知りたい方は、ぜひ参考にしてみてください。
雇用保険とは?

雇用保険とは、労働者が失業した際や、育児・介護などではたらけなくなった場合に、一定の給付を受けられる公的な保険制度のことです。
「失業等給付」や「育児休業給付」などがあり、再就職までの生活を支援することを目的とする制度です。
雇用保険に加入することで、予期せぬ事態に備えられるため、はたらく上で安心感を得られるのが特徴です。
その他、求職者の就職を促進する「就職促進給付」やスキル向上のための「教育訓練給付」なども雇用保険に含まれています。
保険料は労働者と雇用主がそれぞれ負担し、給与から天引きされるシステムです。
パートの雇用保険の加入条件
パート従業員でも雇用保険に加入できますが、所定労働時間と雇用期間の条件を満たす必要があります。
加入条件を満たしている場合は、雇用主はパート従業員を雇用保険に加入させる義務があるのが特徴です。
ここでは、パートで雇用保険に加入する条件について解説します。ご自身が条件に該当するか確認しておきましょう。
1週間の所定労働時間が20時間以上であること
雇用保険に加入する条件には、まず「1週間の所定労働時間が、20時間以上 」である必要があります。
所定労働時間とは、雇用契約書や就業規則などで定められた労働時間のことを指します。
そのため、残業の多い職場では、実際の勤務時間と異なるため注意が必要です。
たとえば、週に3日、1日7時間はたらくパートであれば、合計21時間となるため条件を満たします。
シフト制などで労働時間が不規則な場合は、*月87時間以上であることが判断基準になるため、勤務予定や契約内容を確認しておくことが重要です。
*出典:厚生労働省 雇用保険の手続き
雇用期間が 31日以上であること
もう一つの条件は、「31日以上の雇用が見込まれていること」です。
31日以上の雇用が見込まれる状態とは、31日以上雇用が継続されないことが確かである場合を除き対象となります。
以下の場合は、雇用契約期間が31日未満であっても、原則として、31日以上の雇用が見込まれるとして、雇用保険が適用されます。
- 雇用契約の中に、更新する可能性がある旨の規定があり、31日未満で雇用契約の終了が示されていない
- 雇用契約に更新の規定はないが、同様の雇用契約により、雇用された労働者の中で、31日以上の雇用実績がある
短期や単発のパートなど、31日未満の雇用期間で契約した場合は、たとえ週20時間以上はたらいていても雇用保険の適用にはなりません。
ただし、当初の雇用予定が31日未満であっても、契約が延長され31日を超える見込みとなった時点で加入義務が発生します。
そのため、今後の雇用内容の見通しについても意識しておくと安心です。
パートであっても雇用保険に加入できない5つのケース

パートであっても、条件を満たせば雇用保険に加入できますが、一部の例外に該当する場合は加入できないケースもあります。
これらのケースに該当すると、週20時間以上はたらき、31日以上雇用されることが見込まれる場合でも、雇用保険に加入できません。
ここでは、雇用保険に加入できない代表的な5つのケースについて説明します。特に学生や短期雇用の方は該当する可能性があるため、事前に確認しておきましょう。
学生の場合
昼間に学校へ通っている学生は、パートをしても労働者としてみなされず、原則として雇用保険の加入はできません。
しかし、定時制・通信制の学生や、夜間部の学生の場合は加入可能です。
なお、昼間学生でも以下に該当する場合は雇用保険に加入できます。
- 卒業見込証明書を持っている方で、卒業する前に就職し、卒業した後も引き続き同じ事業所に勤務する予定の方
- 休学中の方(証明する文書が必要です)
- 事業主の指示または承認により、雇用関係を継続したまま大学院などに在学する方
- 出席日数を課程終了の条件としない学校に在学している方で、同じ業務ではたらく他の労働者と同様に、勤務できると認められる方。(証明する文書が必要です)
加入条件に該当するかは、状況によって異なるため、勤務先やハローワークに確認することをおすすめします。
季節的な雇用の場合
季節的な雇用とは、農業やリゾート業など、季節によって一時的に人手が必要な職種で、短期間の契約で雇用されることを指します。
これらの雇用形態では、一般的に雇用期間が短く、31日以上雇用する見込みがないため、雇用保険の適用外となるケースが多いのが特徴です。
ただし、以下の条件に該当する場合は雇用保険に加入できます。
- 4カ月以上の期間を決めて雇用される
- 1週間の所定労働時間が、30時間以上である
また、短期契約であった場合でも、継続雇用が見込まれた時点で加入対象となるため、雇用契約がどのような内容なのかをしっかり確認しておきましょう。
船員
船員の場合、法令で規定されている特定漁船以外で、漁船乗組員として雇用されている方は、雇用保険の適用外です。
特定漁船とは、季節に関係なく1年中稼働している漁船を指します。
主に、遠洋底びき網漁業などに従事する漁船や、漁獲物や加製品を運搬する業務に従事する漁船などが対象です。
ただし、特定漁船以外の場合でも、1年を通して雇用されている方や、船舶所有者に雇用されている方は、雇用保険が適用されます。
加入対象となるかは、雇用条件や従事する業務により異なるため、雇用主やハローワークで確認しましょう。
国や都道府県の事業に雇用されている場合
国や都道府県が運営する事業に雇用されている公務員などの場合は、雇用保険の適用外となります。
適用されない理由は、民間企業と比較して、急な倒産や解雇の可能性が少なく安定していることや、失業した際に退職手当が支給されるためです。
たとえば、公務員に雇用保険を適用すると、国は退職手当と事業主として支払う保険料を負担する必要が出てきます。
これらの財源には税金が含まれており、国民に二重の負担を課してしまうことになります。
前職の雇用主が喪失手続きを行なっていない場合
前職の雇用主が喪失手続きを完了していない場合、新しいパート先で雇用保険に加入できなかったり、給付の受け取りが遅延したりする可能性があります。
前職で喪失手続きを行なわないと、ハローワークでは記録が更新されません。重複加入を避けるため、新たな職場での加入処理が保留となります。
喪失手続きが遅れている場合は、前職の雇用主に確認するとともに、新しい職場にも状況を説明しましょう。
パートの雇用保険料の計算方法

雇用保険に加入した場合、保険料は労働者と事業主の双方で負担し、毎月の給与から保険料が差し引かれるのが特徴です。
保険料は賃金に応じて計算され、事業の種類によっても異なります。
ここでは、雇用保険料がどのように計算され、実際にいくら差し引かれるのかを解説します。
雇用保険料は事業主と労働者の双方で負担
雇用保険料は、事業主と労働者でそれぞれ一定の割合を負担します。
雇用保険料を負担する割合は、厚生年金や健康保険とは異なり、折半ではありません。
事業主側には、雇用の安定や能力の開発を支援する「雇用保険二事業」分が上乗せされるため、事業主側が多く負担するのが特徴です。
なお、雇用保険料率は、失業保険の受給率や、雇用保険料の積立残高などを基準に、毎年見直しされており、負担額が変更される場合があります。
業種によっても異なるため、最新の保険料率については会社からの案内や厚生労働省の資料を確認するようにしましょう。
雇用保険料の計算式
雇用保険料の計算式は、以下の通りです。
・雇用保険料=賃金の総額 × 雇用保険料率
賃金の総額は、基本給だけでなく賞与や通勤手当なども含まれ、税金やその他保険料などを控除する前の合計金額です。
2025年の雇用保険料率は1.45%のため、パート従業員の月の賃金総額が20万円だった場合にあてはめると以下のような計算となります。
・20万×1.45%=2,900円
2,900円を従業員と雇用主で負担して支払う仕組みです。
パート従業員が支払う雇用保険料の算出方法
パート従業員が負担する雇用保険料の計算式は、以下の通りです。
・パート従業員の雇用保険料=賃金の総額×労働者負担分の保険料率
2025年の一般事業労働者の保険料率は*0.55%のため、月の賃金総額が20万円と仮定した場合、以下のような計算式となります。
・20万円×0.55%=1,100円
この場合、パート従業員は保険料として、1,100円が給与から差し引かれます。
計算方法を理解しておくと、給与明細を確認する際にも安心です。
*出典:厚生労働省 令和7(2025)年度 雇用保険料率のご案内
事業主が負担する雇用保険料の算出方法
事業主が負担する雇用保険料の計算式は、以下の通りです。
・事業主が負担する雇用保険料=従業員に支払う賃金の総額×事業主負担分の保険料率
事業主が負担する雇用保険料も、労働者負担分と同様、賃金総額に保険料率をかけて計算します。しかし、労働者の保険率と事業主の保険率は異なるため、間違えないようにしましょう。
2025年の一般事業主の保険料率は*0.9%のため、パート従業員の月の賃金総額が20万円と仮定した場合、以下のような計算式となります。
・20万×0.9%=1,800円
つまり、月の賃金総額が20万の場合、従業員1人の保険料の合計は2,900円。
そのうち、労働者が1,100円、事業主が1,800円を負担する仕組みです。
*出典:厚生労働省 令和7(2025)年度 雇用保険料率のご案内
パートで雇用保険に加入するメリットとデメリット

パート勤務でも一定の条件を満たせば雇用保険に加入できますが、「保険料を払うだけ損では?」と思う方もいるかもしれません。
加入することで得られるメリットは多くある一方で、人によってはデメリットと感じる点もあるため、両面をしっかり理解することが大切です。
ここでは、パートで雇用保険に加入する場合の主なメリットとデメリットについて説明します。
メリット
1.失業時の給付が受けられる
パートで雇用保険に加入する大きなメリットは、失業したときに失業等給付を受け取れることです。
たとえば、契約が終了したり、急な事情で退職を余儀なくされた場合でも、給付金を得られれば、生活の安定につながります。
2.教育訓練給付金でスキルアップ可能
また、雇用保険に加入していると、キャリアアップ支援の一環として、教育訓練給付を受けられるので、学び直しも可能です。
未経験の職種に挑戦したい方でも、学びながら落ち着いて次の仕事を探せる点は大きなメリットと言えるでしょう。
3.育児・介護給付など、ライフイベント時の支援がある
さらに、育児や介護で休業した場合にも、育児休業給付金や介護休業給付金が支給されるため、家庭を支えることができます。
デメリット
1.保険料が毎月引かれる
雇用保険に加入すると、給与から毎月保険料が天引きされる点がデメリットです。
少額でも積み重なれば家計に影響することもあるため、損をしたような気分になる方もいるでしょう。
しかし、万が一はたらけなくなった場合を考慮すると、メリットは大きいと言えます。
長期的な目で見て、はたらき方に合った選択をすることが重要です。
2.所得制限により扶養を外れる可能性がある
雇用保険の加入者は、はたらいて得た年収だけでなく、失業手当などの雇用保険の給付も収入に含まれるため、注意が必要です。
雇用保険を受給する際、基本手当日額が3,612円を超えると、扶養対象外と判断される可能性があります。
ハローワークで発行される雇用保険受給資格者証に、基本手当日額が書かれているので、必ず金額を確認してください。
パートが失業手当を受給するための条件

雇用保険に加入している場合でも、失業手当を受給するにはいくつかの条件があるため、事前に確認しておくことが大切です。
ここでは、パートが失業手当を受けるために必要な、主な3つの条件について解説します。
失業状態になっている
失業手当を受給するには、単に仕事を辞めただけでなく、失業状態であることが必要です。
ここでの失業状態とは、就職する意思と能力があるにもかかわらず、職に就けていない状態を指します。
そのため、以下のような方は受給できません。
- しばらくはたらく予定の無い方
- 育児や学業に専念するために退職する方
- ケガや病気で動けず、はたらける状態ではない方
すぐに仕事ができない方は失業状態とはみなされず、失業手当の受給はできません。
ハローワークに来所して求職の申し込みを行っている
失業手当の受給には、ハローワークに来所し求職の申し込みを行うことが必須です。
申し込みをしないと求職者として登録されず、失業手当の支給は始まりません。
また、認定日には、所定の日時にハローワークに来所する必要があるのが特徴です。
失業状態であるかの確認と、就職活動の実績を求められるため、求人への応募や、ハローワークが実施する職業相談、セミナーなどに参加した実績を報告します。
求人情報を閲覧するだけでは、求職活動とはみなされないため、注意しましょう。
過去2年間のうち通算12か月以上は雇用保険の被保険者
失業手当を受給するためには、過去2年間の間に、雇用保険に加入していた期間が、通算12カ月以上あることが条件です。
なお、倒産や解雇などの会社都合による離職の場合は、雇用保険に加入していた期間が、過去1年間の間で6カ月以上あることが条件となります。
該当期間中に、ケガ、病気、出産、育児などにより、30日以上賃金の支払いがなかった場合は、支払われなかった日数を加えた期間で判断されます。
まとめ
パート勤務でも、週20時間以上はたらき、31日以上の雇用が見込まれれば雇用保険に加入できます。ただし、学生の場合や短期契約である季節的な雇用の場合は、雇用保険の適用外となる可能性があるため、ご自身の雇用契約を確認しましょう。
雇用保険に加入することで、失業等給付や育児休業給付といったサポートが受けられるのは大きなメリットです。一方で、保険料が給与から差し引かれるため、手取りがやや減る点はデメリットとも言えるでしょう。
また、いざという時に失業等給付を受け取るには、雇用保険の加入期間やハローワークでの手続きが必要となります。条件を満たすかどうかを事前に確認し、必要に応じて準備をしておくと安心です。