有給を使い切った後の欠勤対応|企業が取るべき制度とリスク対策を徹底解説

有給休暇をすべて使い切った従業員が欠勤した場合、企業はどう対応すべきか?就業規則、欠勤控除、解雇リスク、制度整備までを網羅的に解説します。
有給休暇と欠勤の関係|制度の基本と違いを理解する
年次有給休暇は、労働者が労働基準法に基づき取得する権利です。一方、欠勤は就業日に出勤せず、会社の承認を得ていない「休み」のことを指し、制度的には大きく異なります。
主な違いは以下の通りです
項目 | 有給休暇 | 欠勤 |
対象者 | 6ヵ月以上勤務かつ所定労働日数の8割以上出勤した社員 | すべての従業員 |
賃金 | 支給される(所定労働時間分 | 支給されない(ノーワーク・ノーペイ原則) |
承認 | 承認原則、事前申請・承認制 | 原則、無承認か正当な理由がないと問題視される |
評価への影響 | 通常なし | 多発する場合、評価や契約継続に影響 |
従業員が年次有給休暇をすべて使い切った後に欠勤した場合、それは原則として「欠勤扱い」となり、給与は支給されず、欠勤控除の対象になります。
欠勤とは?定義と就業規則上の扱い
「欠勤」とは、所定労働日に出勤すべき労働者が出勤しなかった状態を指します。企業としては、就業規則に欠勤の定義や扱いを明記しておくことで、トラブル発生時の判断材料となります。
特に以下のような内容を記載することが重要です
- 欠勤の定義と該当するケース
- 欠勤控除の計算方法
- 欠勤が続いた場合の懲戒・解雇判断基準
- 欠勤申請の手続き(事前・事後)
欠勤と有給・休職・公休・休業との違い
労働制度には「有給」「欠勤」「休職」「公休」「休業」と、類似した用語が多く存在します。企業側の誤認識を防ぐため、明確な定義の整理が不可欠です。
用語 | 定義 | 賃金の支払い | 備考 |
有給 | 法定または会社付与の休暇 | 支給あり | 労働者の権利 |
欠勤 | 出勤予定日を休む(無給) | 支給なし | 欠勤控除対象 |
休職 | 就業不能な長期休業 | 通常支給なし | 傷病・介護等理由で就業不可 |
公休 | 会社指定の休日 | 支給あり | 所定労働日以外 |
休業 | 会社都合による業務停止 | 一部補償あり | 労働基準法第26条で定義 |
欠勤が発生した際の実務対応と判断ポイント
欠勤理由を確認・記録する
体調不良や家族の急病など、欠勤にはさまざまな理由があります。企業は必ず欠勤理由を確認し、診断書など必要な書類を提出してもらいましょう。適切な記録があることで、後の人事評価や契約更新の判断がスムーズになります。
欠勤控除の対象か判断する
欠勤が発生した場合、給与を支給するかどうかは「ノーワーク・ノーペイの原則」に基づいて判断します。これは「労務を提供しなかった日については、賃金を支払う義務はない」という原則であり、労働契約法にも準拠した考え方です。
ただし、以下のようなケースでは慎重な判断が求められます
- 正当な理由(例:病気や家族の看護)に基づく欠勤
- 労使協定や就業規則に特別休暇制度がある場合
- 欠勤が連続して長期化し、傷病手当金の申請対象となる場合
企業は、欠勤控除の対象かどうかを形式的に判断するのではなく、欠勤理由や就業規則、労働契約書の記載内容を踏まえた上で判断し、従業員に丁寧な説明を行うことが求められます。
給与・賞与・人事評価への影響を説明する

欠勤日数が多い場合、給与への直接的な影響はもちろん、賞与や人事評価にも波及する可能性があります。
企業が考慮すべき主な影響要素は以下のとおりです
- 月給: 欠勤日数分を日割または時間単位で差し引き(欠勤控除)
- 賞与(ボーナス): 出勤率や勤務態度が評価指標となる場合、支給額に影響
- 人事評価: 欠勤頻度や業務影響度を考慮し、評価を行う必要あり
このような影響について、就業規則や給与規定に明確に記載し、従業員に周知することで、後のトラブルを防止できます。
欠勤控除の計算方法
欠勤控除の計算は、月給制・日給制・時間給制によって異なります。ここでは月給制を前提に、代表的な計算式をご紹介します。
【1日欠勤した場合の計算式】
控除額 = 月給 ÷ 所定労働日数 × 欠勤日数
【時間単位での欠勤があった場合】
コピーする編集する
控除額 = 月給 ÷ (所定労働日数 × 所定労働時間) × 欠勤時間数
※所定労働日数とは、1ヵ月あたりの会社が定めた出勤日数を指し、暦日数や公休日を除いて計算します。
企業は、給与計算ソフトや人事部の確認体制を通じて、正確に控除処理を行いましょう。特に欠勤が時間単位で発生した場合、計算ミスによるトラブルが発生しやすいため注意が必要です。
就業規則に欠勤時の対応を明記しておくべき理由
就業規則は、従業員との労働契約の根拠となる文書であり、欠勤が発生した場合の対応も必ず記載しておくべき項目です。記載が不十分な場合、減給処分が無効と判断されるリスクもあります。
欠勤控除の明記と承認フロー
以下の項目を就業規則に明記しておくことで、企業としての法的リスクを軽減できます。
- 欠勤に伴う減給のルール(計算式や金額)
- 欠勤が発生した場合の報告義務(上司・人事への連絡方法)
- 欠勤申請の承認フロー(事前申請/事後申請の区別と期限)
明記に加え、従業員に対する説明会や人事部の問い合わせ対応体制を整備することで、制度の透明性を高めましょう。
無断欠勤・長期欠勤のリスクと懲戒・解雇の基準
無断欠勤が続く場合や、長期欠勤が正当な理由なく行われる場合には、懲戒処分や解雇という選択肢も視野に入れる必要があります。
ただし、以下の点に注意しましょう
- 懲戒・解雇は最終手段であり、就業規則に基づく正当な理由が必要
- 解雇理由が「正当」でない場合、不当解雇として訴訟リスクがある
- 解雇通告には労働契約法や労働基準法に基づくルールがある
長期欠勤者については、復職支援・カウンセリング・休職制度の活用など、柔軟な対応も検討すべきです。
人事・労務担当が整えておくべき制度と欠勤対応の基本
従業員が有給休暇を使い切ったあとに欠勤するケースは、企業にとって予期せぬ業務への影響を及ぼす可能性があります。人事・労務担当者としては、こうした事態に備え、欠勤に関わる社内制度を整備・明文化しておくことが求められます。
特に以下のような制度の導入・周知が効果的です。
従業員が活用できる制度と導入の検討(傷病手当金、特別休暇、休職制度等)
■ 傷病手当金の申請支援
健康保険加入者が病気やケガで働けない場合、連続する4日以上の休業で傷病手当金を受給できる可能性があります。会社は、診断書の取得支援や、申請手続きの説明を行うことで、従業員の安心と業務の継続性を確保できます。
■ 特別休暇制度の整備
年次有給休暇とは別に、会社独自で設定する「特別休暇(慶弔・介護・災害等)」を導入しておくことで、欠勤を未然に防ぐ選択肢となります。
■ 休職制度の柔軟運用
長期欠勤が見込まれる場合、休職制度の活用を検討しましょう。休職中の給与支払い義務はありませんが、制度の内容や復職条件については、就業規則に明記しておく必要があります。
急な欠勤が発生した際は、スキマバイト『シェアフル』の活用がおすすめ
突発的な欠勤で現場の業務に支障が出る場合、即戦力の人材を補填できるサービスの導入も有効です。たとえば、スキマバイトサービス「シェアフル」は、企業が求人を掲載するだけで、最短即日で勤務可能なワーカーを採用できます。
主な活用メリット
- 欠勤当日の人材不足をスピーディーにカバー
- 募集から勤務開始までの手続きがシンプル
- 勤務状況のレポートや労務対応機能も充実
このような外部サービスの活用を制度の一部として整備しておくことも、欠勤リスクを最小限に抑える手段のひとつです。
欠勤が頻発する従業員への中長期的対応は?
欠勤が繰り返される場合、単なる一時的な対応ではなく、中長期的な改善アプローチが必要です。以下の対応策が有効です。
■ 勤怠履歴の記録と分析
勤怠システムやExcelなどで日数分の欠勤記録を蓄積し、時系列での傾向を把握します。突発的な体調不良が重なっているのか、曜日に偏りがあるのかなど、データに基づいた分析が重要です。
■ カウンセリングと個別面談
本人の事情(健康・家庭環境・職場不適応など)を丁寧にヒアリングし、企業として必要なサポートや制度利用の提案を行います。対応記録を残すことで、公平な評価や指導の根拠にもなります。
■ 就業条件の見直し
状況に応じて、勤務時間の短縮や在宅勤務の導入を検討することで、欠勤の頻度を抑えられるケースもあります。
企業が避けるべきNG対応と注意点
欠勤が発生した際、企業の対応によってはトラブルや訴訟リスクにつながる可能性もあります。以下のような対応は避けるべきです。
- 診断書の提出があっても信用せず、一方的に解雇通告を行う
- 欠勤理由の確認を行わず、給与を減額する
- 欠勤の多い従業員を「不誠実」と評価し、人事考課で減点する
- 就業規則に基づかない処分を実施する
いずれも労働基準法や労働契約法の違反につながる可能性があり、社内での周知徹底や研修による防止策が求められます。
有給消化後の欠勤に関するよくある質問(FAQ)

Q:欠勤が多い従業員の契約更新はどうすべき?
短期契約社員などの契約更新において、出勤状況は重要な判断材料となります。評価や出勤率、業務への影響を定量的に判断し、あらかじめ契約書や就業規則に基準を明記しておくことで、公平性が担保されます。
Q:欠勤に診断書が必要なケースは?
欠勤が連続する場合や、長期的な体調不良が疑われる場合は診断書の提出を求めることが適切です。ただし、1日の欠勤に対して診断書を義務づけることは、実務上過剰対応となる可能性もあるため、制度上のバランスを保ちましょう。
Q:欠勤後の出勤指導に法的問題はない?
指導内容が一方的・威圧的と判断された場合、不当な圧力とみなされる可能性があります。出勤を促す際は、業務の状況や本人の事情を踏まえた丁寧な説明と、文書記録の残存が必要です。
まとめ|企業の対応次第でリスクは最小限にできる
有給をすべて消化したあとの欠勤は、企業にとって業務への影響や給与処理、トラブル発生の可能性など、さまざまなリスクを伴います。しかし、制度整備や就業規則への明記、従業員との適切なコミュニケーションを通じて、これらのリスクは最小限に抑えることができます。
企業は単に欠勤を処罰的に捉えるのではなく、従業員の事情や制度の柔軟な活用、第三者サービスの活用まで含めた包括的な人材マネジメントを実践することが重要です。