退職代行を使われた企業の対応マニュアル|法的知識と適切な手順|

近年、「退職代行サービス」の利用が増加しており、企業側の適切な対応が求められています。突然の退職代行による連絡は、人事担当者にとって戸惑いの原因となることがありますが、法的知識と適切な手順を理解することで、スムーズな対応が可能になります。本記事では、退職代行サービスの基本から具体的な対応手順まで、企業側が知っておくべき情報を詳しく解説します。
退職代行とは?企業側が知っておくべき基本知識
退職代行サービスとは、従業員に代わって退職の意思表示や手続きを行うサービスです。従業員は直接上司や人事担当者と対面することなく、第三者を通じて退職の意向を伝えることができます。
法的には、民法第627条により、労働者には退職の自由が保障されています。退職の意思表示さえ確実に行われれば、それは有効とされる点を押さえておく必要があります。
退職代行サービスの3つの形態と法的効力の違い
退職代行サービスには主に3つの形態があり、それぞれ法的な権限や効力が異なります。
1. 弁護士型退職代行
弁護士が運営する退職代行サービスは、最も法的効力が高いとされています。弁護士は依頼者(退職者)の代理人として正式に活動でき、法的に認められた代理権を持ちます。会社とのやり取りも、法的知識に基づいて行われるため、企業側も法的には異議を唱えにくい立場にあります。
2. ユニオン型退職代行
労働組合(ユニオン)が提供する退職代行サービスも、法的な裏付けがあります。労働組合法により、ユニオンには団体交渉権が認められており、組合員となった従業員の代理として会社と交渉する権利を持ちます。ただし、団体交渉は「労働条件」に関するものに限られるため、単純な退職手続きだけでなく、未払い賃金や労働環境の問題などが絡む場合に効果的です。
3. 民間業者型退職代行
一般的なビジネスとして運営される民間の退職代行サービスは、法的には「使者」としての役割しか持ちません。つまり、従業員の意思を伝えるだけで、法的な交渉権や代理権は持っていません。そのため、会社に対して有給休暇の消化交渉や、退職金の交渉などを行うことは、法律上「非弁行為」(弁護士法第72条違反)となる可能性があります。
退職代行サービスの利用が急増している理由
退職代行サービスが広く利用されるようになった背景には、いくつかの社会的・心理的要因があります。
社会的背景:
- はたらき方の多様化と転職のハードルの低下
- SNSでの口コミによるサービス認知度の向上
- リモートワークの普及による対面コミュニケーションの減少
心理的要因:
- 直接的な対面での退職申し出に伴う精神的ストレスの回避
- 退職を引き止められることへの不安や恐れ
- 上司や同僚との関係性の悪化による心理的障壁
- パワーハラスメントや過重労働などの職場環境に起因する心理的圧迫感
退職代行を使われた場合の初動対応5ステップ

突然、退職代行サービスから連絡が来た場合、冷静かつ適切に対応することが重要です。以下の5ステップを踏むことで、法的リスクを最小限に抑えながら状況を整理できます。
ステップ1:連絡内容を正確に記録する
退職代行からの連絡内容を、日時・連絡方法・担当者名・連絡先・内容など、できるだけ詳細に記録します。後日のトラブル防止のために、メールやFAXなど記録に残る形での連絡を依頼するのも有効です。
ステップ2:代行業者の種類と資格を確認する
連絡してきた退職代行が弁護士型なのか、ユニオン型なのか、あるいは民間業者なのかを確認します。これにより、法的な対応の範囲や注意点が変わってきます。
弁護士資格の確認方法
弁護士名と所属する弁護士会、登録番号等を確認し、日本弁護士連合会のウェブサイトで検索しましょう。
非弁行為の見分け方
民間の退職代行業者が「退職日」や「退職金額の交渉」などを申し出てきた場合は、非弁行為の可能性があります。このような場合は、「法的な交渉については、弁護士資格を持つ方との対応になる」と伝えましょう。
適法な業者かどうかの判断基準
- 明確な会社名、住所、代表者名を名乗るか
- ウェブサイトに運営会社の情報が明記されているか
- 弁護士型の場合、弁護士名と登録番号が確認できるか
- ユニオン型の場合、正規の労働組合として登録されているか
ステップ3:退職者本人の意思を確認する
退職代行を通じて、本当に本人の意思によるものなのかを確認しましょう。
また本人に直接意思を確認したいと考える方もいますが、退職代行業者からは従業員への直接連絡を控えるよう指導されるのが一般的なので注意が必要です。
ステップ4:退職条件と日程を明確にする
退職予定日、有給休暇の消化、業務の引継ぎ方法などについて明確にします。特に業務の引継ぎについては、就業規則で引き継ぎを済ませてから退職すると定められている事例が多いため、まずは就業規則を確認いただき、引き継ぎができる状況にあるか判断しましょう。
ステップ5:社内での情報共有と手続きを進める
人事部門、直属の上司、関連部署など、必要な関係者に情報を共有し、退職手続きを進めます。この際、退職者のプライバシーに十分配慮することが重要です。
退職届の受理と必要書類の手配
退職の意思が確認できた場合、速やかに退職手続きを進めるための書類の準備と手配を行います。
退職代行って断れるの?
結論、代行サービスの種類によって断ることも可能なものもある。但し、今後のレピュテーションリスク、揉める労力・工数等の総合判断をし、諦める事例が多い。
必要書類のリスト
- 退職届(従業員本人のサイン、押印があるもの)
- 会社所有物の返却リストと返却方法の確認書
- 最終給与・退職金振込先確認書
- 健康保険被保険者資格喪失届
- 雇用保険被保険者資格喪失届
- 年金手帳(事務で保管している場合)
- 源泉徴収票
- 離職票
- 退職証明書
円滑な手続きのためのチェックリスト
- 退職予定日の確認(基本的には、就業規則に則り退職日を決めますが、就業規則に法的拘束力がないため、民法627条に則り最短2週間前の退職になる場合もあります。)
- 有給休暇残日数の確認と消化方法の決定
- 会社貸与品の返却方法と期限の設定
- 業務引継ぎ方法の決定
- 社会保険・雇用保険の手続き担当者の指定
- 退職金がある場合の計算と支払い時期の確認
- 機密保持義務の確認
- 競業避止義務の確認(該当する場合)
退職手続きを進める際は、感情的にならず、淡々と事務的に対応することが重要です。特に退職代行を利用されるケースでは、従業員との信頼関係がすでに損なわれている可能性が高いため、追加的なトラブルを避けるよう配慮しましょう。
退職代行との交渉で「やってはいけないこと」

退職代行からの連絡を受けた場合、企業側が陥りがちなミスがいくつかあります。法的リスクを避けるためにも、以下の点に注意しましょう。
絶対に避けるべき対応
- 退職の意思表示を無視する
- 退職届の受け取りを拒否する
- 退職者に対して直接の引き止めを執拗に行う
- 退職代行を通じた連絡を一切拒否する
- 退職者に対して報復的な言動をとる
これらの行為は、労働者の退職の自由を侵害するものとして、労働基準監督署からの是正勧告や、最悪の場合、訴訟につながる可能性があります。
民間退職代行サービスとの交渉における法的リスク
民間の退職代行サービスとの交渉には、特有のリスクがあります。弁護士やユニオンと異なり、法的な代理権を持たないため、会社側も慎重に対応する必要があります。
非弁行為にあたる業者との交渉の危険性
- 民間の退職代行業者が法律事務(労働条件交渉など)を行うことは非弁行為にあたる
- そのような交渉に応じることで、会社側も間接的に非弁行為を助長する可能性がある
- 非弁業者との交渉記録が残ると、後日のトラブル時に不利になることもある
法的に問題のある要求の見分け方
- 「未払い残業代の請求」などの金銭的請求
- 「退職理由の証明書への記載方法」などの交渉
- 「有給休暇の取得日数増加」などの労働条件変更
- 「退職金の増額」などの交渉
これらの要求がある場合は、「そのような交渉は弁護士資格を持つ方との間で行う必要がある」と伝え、民間の退職代行との交渉は避けるべきです。
退職意思表示後の慰留行為の限界
従業員から退職の意思表示があった後の慰留行為には、法的・倫理的な限界があります。特に退職代行を利用されるケースでは、元々の職場環境に問題があった可能性も考慮し、慎重に対応する必要があります。
強引な慰留がパワハラとなるケース
- 繰り返し退職撤回を求める連絡(メール、電話、訪問など)
- 「迷惑をかける」「裏切り行為だ」などの精神的圧力をかける言動
- 退職届の受領を拒否し続ける行為
- 引継ぎを理由に過度に退職日を先延ばしにする要求
- 上司や同僚からの集団的な慰留行為
退職の自由の原則について
- 民法第627条により、労働者には退職の自由が保障されている
- 期間の定めのない雇用契約は、労働者からの申し出により2週間後に終了する
- 企業側に退職を拒否する法的権利はない
- 退職の自由は労働者の基本的権利であり、それを妨げる行為は違法となりうる
退職の意思表示をしている従業員に対しては、その意思を尊重し、円満な退職ができるよう配慮することが、企業としての責任ある対応といえるでしょう。
有給休暇消化と最終給与計算の注意点
退職代行を利用したケースでは、有給休暇の消化方法や最終給与の計算において特に注意が必要です。
退職代行を使われた場合の有給休暇の扱い
- 原則として、有給休暇は労働者の権利であり、退職前に消化することが可能
- 退職代行を通じて「退職日まで有給休暇を使用したい」という要望があった場合、正当な理由なく拒否することはできない
- ただし、業務の引継ぎなど、会社の「時季変更権」(労働基準法第39条第5項)が認められる場合もある
- 有給休暇の買取については、退職時に限り法的に認められている
最終給与計算での注意点
- 未払い賃金(通常の給与、残業代)の正確な計算
- 退職月の社会保険料の正確な控除
- 有給休暇買取がある場合の計算(1日あたりの賃金×残日数)
- 退職金がある場合の正確な計算と支払い時期の明確化
- 所得税の調整(年末調整の処理)
トラブルになりやすいポイント
- 残業代の計算不備(特に固定残業代を採用している場合)
- 有給休暇の残日数の認識の相違
- 退職日の設定(退職届提出から2週間以内か、それとも最終勤務日か)
- 貸付金や備品紛失などの相殺処理(一方的な相殺は避けるべき)
- 源泉徴収票や離職票の発行遅延
最終給与の計算ミスや支払い遅延は、退職後のトラブルに発展しやすいため、特に慎重に対応しましょう。また、退職代行を利用した従業員の場合、直接の質問や確認が難しいため、計算根拠を明示した給与明細を提供することが重要です。
退職代行を使われるケースの企業側要因分析
従業員が退職代行サービスを利用する背景には、さまざまな企業側の要因が考えられます。この分析を通じて、組織の問題点を発見し、改善につなげることが重要です。
退職代行利用の背景にある職場環境の問題
退職代行の利用率が高い企業には、以下のような共通の問題が見られることが多いです。
パワーハラスメントの存在
- 上司からの過度な叱責や否定的なフィードバック
- 能力や実績に関係なく人格を否定するような言動
- 孤立させる、仲間外れにするなどの行為
- 過大な業務を課す、または逆に仕事を与えない行為
過重労働の常態化
- 慢性的な長時間労働
- 休日出勤の常態化
- 有給休暇が取得しづらい雰囲気
- 業務量に対して人材が不足している状況
コミュニケーション不全
- 上司と部下の1on1ミーティングの欠如
- 意見や提案を言いづらい雰囲気
- フィードバックの機会が少ない
- 組織の方針や決定事項の透明性の欠如
その他の組織的問題
- キャリアパスの不明確さ
- 評価制度の不透明さや不公平感
- 同僚間の過度な競争や対立
- メンタルヘルスケアの不足
これらの問題が複合的に存在する職場では、従業員が「直接退職を伝えることによるストレス」や「引き止められることへの不安」から、退職代行を選択するケースが多いと考えられます。
退職代行を使われた企業の対策
実際に退職代行を多く使われている企業には、いくつかの共通点があります。これらの特徴を理解し、予防策を講じることが重要です。
ハラスメントへの対策
- ハラスメント防止研修の定期的な実施
- 明確なハラスメント防止ポリシーの策定と周知
- 匿名の相談窓口の設置と適切な対応
- 管理職のコミュニケーションスキル向上トレーニング
長時間労働の改善策
- 業務の効率化と優先順位付けの見直し
- 必要に応じた人材増強や業務の再分配
- ノー残業デーの導入
- 労働時間の可視化と上限管理の徹底
職場環境改善のための具体策
- 定期的な従業員満足度調査の実施と結果に基づく改善
- 経営層と現場のコミュニケーション機会の増加
- テレワークやフレックスタイム制など柔軟なはたらき方の導入
- 成功事例の共有と称賛文化の醸成
退職代行を使われた際は、単にその対応だけでなく、なぜ従業員が直接退職を伝えられなかったのかを組織として振り返り、根本的な課題解決に取り組むことが重要です。
退職代行を使われないための組織づくり
退職代行の利用を防ぐためには、従業員が直接退職の意思を伝えやすい組織文化を構築することが重要です。また、定期的な従業員の声を聞く仕組みを整えることで、退職に至る前に問題を発見し、対処することが可能になります。
退職意向を表明しやすい組織文化の構築
従業員が退職を考えた際に、直接上司や人事部に相談できる環境づくりが重要です。
従業員が退職を直接伝えやすい環境づくりのポイント
- 退職は自然なキャリアの選択肢の一つとして受け入れる文化の醸成
- 退職の意思表示をしても、その後の勤務期間中のパフォーマンス評価に影響しないことの保証
- 退職を伝えた従業員に対する感謝と敬意を示す文化の構築
- 退職者を送り出す際の温かいセレモニーの実施
1on1ミーティングの活用法
- 定期的(週1回または隔週)な1on1ミーティングの実施
- キャリア志向や不満点についても率直に話せる関係性の構築
- 上司からの一方的な指示ではなく、双方向のコミュニケーションを重視
- ミーティングの内容を記録し、継続的なフォローアップを行う
心理的安全性の確保について
- 失敗を責めるのではなく、学びの機会として捉える文化の醸成
- 多様な意見や異論を尊重し、建設的な議論を促進
- 「正解」よりも「対話のプロセス」を重視する姿勢
- 経営層からの透明性の高いコミュニケーション
心理的安全性が確保された職場では、従業員は自分の意見や感情を率直に表現でき、退職の意思も直接伝えやすくなります。退職代行の利用は、多くの場合、この心理的安全性の欠如から生じるものといえるでしょう。
まとめ
退職代行サービスの利用は、今後も増加する可能性が高い現象です。
企業側としては、この状況を「時代の流れ」として受け入れつつ、適切な対応策を準備しておくことが重要です。
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